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2012年6月19日火曜日

日本を救う、救いたい(その3・完) ・・・大学教授の言葉・・・

題:日本を救う、救いたい(その3・完)・・・大学教授の言葉・・
         岩田規久男氏(学習院大学教授)の言葉

 日本では、
 日銀と多くのエコノミストが、
 この金融政策の波及経路を理解していないため、
 「日銀がおカネをばら撒いても、人々は買いたいものがないから
買わない」とか、
 「日銀が貨幣を増やそうとしても、資金需要がないため、銀行貸
出が増えないから、貨幣を増やすことはできない。
 したがって、
 金融政策ではデフレから脱却できない」といった
 誤解や神話が横行している。
 著者は、こうした誤解と神話を打ち砕くために、
 何年もの間、
 著書や論文などを発表してきたが、
 いつまでたっても、
 日銀と多くのエコノミストは、
 まるでオウムのように、右の様な誤解と神話を繰り返すだけであ
る。
 しかし、
 本書で示す様に、
 日銀の金融政策のレジーム(金融政策のスタンス)を
 「デフレ・ターゲティング」から「おだやかなインフレ・ターゲ
ティング」に転換させれば、
 インフレ予想が形成され、
 デフレと超円高から脱却することができる。

 読者に是非理解していただきたい点は、
 デフレと円高から脱却する上で、
 銀行の貸出が増えて、
 貨幣が増える必要はないことである。
 日本は、
 デフレのために、
 家計も企業もモノやサービスへの支出を控えており、
 金余りだからである。
 金融政策によってインフレ予想が形成されると、
 家計や機関投資家は、
 今まで眠らせていたお金を、
 株式投資や外貨投資に振り向けるようになる。
 これにより、
 株価が大きく上昇して、
 デフレで痛んだバランス・シートが改善され、
 為替相場は円安になる。
 予想インフレ率が上昇すると、
 予想実質金利が低下するため、
 これまでは有利でなかった設備投資の採算が取れるようになる。
 そこで、
 企業は余っているお金で設備投資を始める。
 同様にして、
 家計は余ったお金で耐久消費財を買い始め、
 さらに、
 それに借入金を加えて、住宅投資を開始する。
 このようにして、
 これまで眠っていたお金(貨幣)が取引を媒介するようになる。
 これを貨幣の流通速度が速くなるという。
 デフレと超円高からの脱却過程では、
 しばらくの間は、
 銀行貸出と貨幣は増えずに、
 貨幣の流通速度が速くなって、
 活発化した取引を媒介するのである。

 つまり、
 「銀行貸出と貨幣が増えなくても、インフレ予想が形成されて、
おだやかなインフレが始まり、円安への転換が始まる」という点こ
そが、「おだやかなインフレ・ターゲティング」へのレジーム転換
の要諦なのである。

 銀行貸出と貨幣が増え始めるのは、
 貨幣の流通速度の加速化が限界に達するほど、
 経済取引が活発化してからである。
 著者は、
 本書によって、
 一人でも多くの読者が、
 日銀が流布している金融政策に関する誤解と神話から目覚めて、
 日銀をまともな中央銀行に返る運動が高まり、
 それによって、
 日本経済が1日も早く、
 デフレと超円高から脱却して、
 人々の生活が安定すること願っている。
 ーー略ーー 
             2011年1月31日 岩田規久男
☆教授の主な著書に:『金融入門新版』『国際金融入門新版』(岩
波新書)、『経済学を学ぶ』『日本経済を学ぶ』『世界同時不況』
(ちくま新書)、『景気ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)
、『インフレとデフレ』『日本銀行は信用できるか』(講談社現代
新書)などがある。

2012年6月18日月曜日

日本を救う、救いたい (その2) ・・・大学教授の言葉・・・

題:日本を救う、救いたい(その2)・・・大学教授の言葉・・・ 
         岩田規久男氏(学習院大学教授)の言葉

 こうした企業行動により、
 雇用はますます減少し、
 増えるのは非正社員雇用ばかりになってしまう。

 日本は少子・高齢化が急速に進み、
 生産年齢人口が減少する時代に入った。
 そうであれば、
 本来、
 労働市場は人手不足で、
 「売り手市場」になるはずである。

 ところが、
 実際に起きているのは、
 就職氷河期に象徴される「買い手市場」で、
 大量の就職浪人の発生である。

 いったい、
 どうしてこんな馬鹿げたことがおきるのであろうか。
 たまたま、
 高校や大学を卒業した時が不景気のために、
 正社員になれなかった人の多くは、
 セカンド・チャンスがほとんどないため、
 一生、
 非正社員として働かなければならない。
 正社員と非正社員の生涯所得には
 約2.5倍もの格差がつく
             (2009年年次経済政報告による)。
 以上の様な雇用状況では、
 多くの人が将来不安から、
 財布のひもを締めて、
 支出を控える。
 その支出の抑制がデフレを促進する。
 特に、
 若い人には希望がなく、
 かれらが内向きになるのも当然である。
 菅直人首相は
 「一に雇用、ニに雇用、三に雇用」といって首相になった。
 しかし、
 政府には雇用を増やす手段はほとんどない。
 なぜならば、
 雇用が悪化しているのは、
 デフレと超円高のためだからである。
 そして、
 超円高の原因はデフレである。
 政府にできる事は、
 税金を使って、
 デフレと超円高で悪化する雇用の痛みを和らげることぐらいしか
ない。

 経済界は、
 政府に成長戦略を求めているが、
 デフレと超円高のままでは、
 どんな成長戦略をとってもその成果は望めない。

 それは、
 成長戦略とは、
 規制緩和などによって
 供給能力を増強する政策だからである。

 日本経済はデフレと超円高で、
 大幅な需要不足である。
 需要が大幅に不足している時に、
 供給増強政策をとれば、
 ますます、
 需要が供給に対して不足するようになり、
 雇用が悪化するだけである。

 成長戦略が成果を上げるためには、
 まず、
 デフレを止めなければならない。

 デフレを止めれば、円高も止まる。

 デフレと超円高を止める事が出来る唯一の機関は、
 政府ではなく、
 日本銀行である。

 これを逆に言えば、
 デフレと超円高をもたらしている真犯人は、
 日銀だという事である。

 本来、
 政府が日銀の政策目標を決め、
 その目標達成を日銀に義務付けなければならない。
 つまり、
 本来、
 日銀には金融政策の目標を決定する自由はなく、
 あるのは、
 目標を達成するための手段を選ぶ自由である。
 これが、
 政府からの日銀の独立の本来の意味である。
 すなわち、
 右の意味で、
 日銀は政府の子会社であり、
 親会社の政府の目的に従わなければ、
 国家経営は成り立たないのである。

 ところが、
 1998年から施行された「新日銀法」は
 日銀に目的達成の手段だけでなく、
 政策目標の決定についても政府からの独立を認めてしまった。
 その為、
 それ以後、
 日銀は何らの責任も取ることなく、
 「いいたい放題、やりたい放題」の独善的機関になってしまい、
 子会社の日銀が
 多少とも「デフレ脱却」のポーズをとると、
 親会社の社長や取締役が「ご協力いただいて、感謝します」とい
う始末である。
 親会社が子会社をコントロールできない会社が
 まともな経営をできるはずがない。
 小泉純一郎内閣も
 「デフレ脱却」を掲げたが、
 日銀に対しては何も注文しなかった。
 それが「政府からの日銀の独立」であると勘違いしていたからで
ある。
 そのため、
 小泉元首相はデフレ脱却を果たすことなく、
 郵政民営化の目途をつけるとさっさと政権を降りてしまった。
 小泉元首相に
 デフレ脱却の意図はまったくなく、
 あったのは郵政民営化だけだったのである。
 国民も新聞などのメディアも
 政府や首相をとっかえ、ひっかえしても、
 何も変わらないこと、
 攻めるべき本丸は「日銀にある」ことに気が付くべきである。

 金融政策は分かりにくいといって敬遠するのではなく、
 金融政策こそが、
 雇用をはじめとする、
 私たちの生活の良し悪しを決定する政策であることを
 理解しなければならない。

 この本は、
 日銀の金融政策をどのように変えれば、
 デフレと超円高から脱却して、
 雇用も、財政も、年金も
 大きく改善できるかを明らかにしようとするものである。
 とくに、
 本書で強調していることは、
 デフレ下の金融政策とは、
 人々の間におだやかなインフレ予想の形成を促すことによって、
 デフレと超円高から脱却する政策である、
 という点である。    (つづく)

2012年6月17日日曜日

日本を救う、救いたい (その1) ・・・大学教授の言葉・・・

題:日本を救う、救いたい(その1)・・・大学教授の言葉・・・ 

 岩田規久男氏(学習院大学教授)の言葉:
 「経済界は、
 政府に成長戦略を求めているが、
 デフレと超円高のままでは、
 どんな成長戦略を取ってもその成果は望めない」・・と、先生は
言われる。
 素晴らしい言葉が続く。
 今(2012・6・14)も超円高ですが
 (米ドル79.38、ユーロ99.72)、
 一度は読んでいただきたい本です。
 本:「デフレと超円高」(講談社現代新書)。

 著者略歴:
 1942年、大阪府に生まれる。1966年、東京大学経済学部卒、
 1973年、同大学大学院博士課程修了。1998年、学習院大学経済
 大学教授。この間1976年~1978年までカリフォルニア大学バー
 クレー校において客員研究員を務める。専門は金融・都市経済学。

 (内容抜粋):
 2010年の日本経済は、
 急速な超円高に振り回された1年であった。
 2010年12月30日の円ドルレートの終値は81円50銭で、
 年初(2010年1月4日)よりも14%の円高・ドル安だった。
 2008年9月半ばのリーマン・ショック以降の世界同時不況化で見
ると、
 円の対外相場の急騰は猛烈を極めている。
 すなわち、ドル、ポンド、ユーロ、元、ウォンに対して、
 それぞれ、32%(2010年12月30日終値の2008年9月12日比)、
 51%(2010年12月29日終値の2008年9月12日比。以下同じ)、
 41%、27%、35%もの円高である。
 円は、
 資源国で世界同時不況からいち早く立ち直った高金利通貨国(長
期国債金利は5%台)のオーストラリア・ドルに対してさえも、
 世界同時不況下で5%の円高である。
 実質実行為替相場で見ると、
 円はリーマン・ショック後、
 2010年末までに26.5%も上昇しており、
 その通貨高は突出している。
 この様に、
 デフレに加えて、
 円がどの通貨に対しても軒並み高騰したままでは、
 政府がどんな成長戦略をとろうとも、
 日本経済が安定した成長を達成し、
 それを維持することは不可能である。

 一部には、
 こうした超円高を歓迎すべきであると捉える向きがあるが、
 超円高は、
 日本経済の強さの結果生じたものではなく、
 単に、
 世界中で日本だけがデフレであるために生じているに過ぎない。
 超円高を歓迎する人は、
 日本だけがデフレであることを歓迎しているのである。
 超円高でも、
 2010年9月頃までは、
 日本経済は何とか持ちこたえて来た。
 それは、
 世界同時不況下でいち早く立ち直った新興国経済への輸出が好調
だったことと、
 エコカー補助金・減税と家電エコ・ポイント制が、
 消費の大幅増をもたらしたからである。
 しかし、
 エコカー補助金が2010年9月初めに終了すると、
 10月と11月の乗用車新車販売台数は前年同月比で、
 それぞれ、29%減、34%減となった。
 家電エコ・ポイント制は、
 2011年3月末まで延長されたが、
 予算がなくなれば、その前でも打ち切りになる。
 一方、
 中国などの新興国は、
 インフレ警戒に入っており、
 金融引き締め政策への転換により、
 今後、その成長は鈍化する可能性がある。
 ギリシャやアイルランドなど、
 財政危機を抱えたヨーロッパ経済にも暗雲が垂れ込めている。

 以上の様に、
 これまで日本経済を支えて来た二つの要因が、
 剥落するにつれて、
 今後、
 デフレと超円高の大きな負の効果が本格化すると懸念される。
 デフレと超円高は何よりも雇用を直撃する。
 失業率は、5%台で高止まりしているが、
 失業率がこの程度で止まっているのは、
 企業内が国から雇用調整助成金の支給を受けて、
 必死に正社員の雇用を守っているからである。
 企業内の潜在的失業者は、
 528万人から607万人にも達すると推計されている(2009年度年
次経済政報告による)。
 これは、
 雇用者の10%から12%は
 実質的には失業者であることを意味する。
 したがって、
 企業内潜在的失業者を加えた実質的な失業率は、
 13%から14%にも達することになる。
 さらに、
 雇用は失業率だけでは測れないほど悪化している。
 リーマン・ショック以降、
 正社員は減少し続け、
 増えるのは賃金が低く、
 雇用の不安定な非正社員ばかりで、
 雇用者に占める非正社員は、
 35%(2010年7~9月期。以下同じ)にも達する。
 男性非正社員のうち36%は、
 これからの日本経済を担うべき15歳から34歳の若年層である。
 失業期間は長期化し、
 失業者336万人のうち38%の人は、
 1年以上も失業している。
 デフレが始まって以降、実質賃金も低下した。
 2009年上期と2010年上期の実質賃金(5人以上の事業所)は、
 デフレが始まる前の1997年上期よりも、
 それぞれ、7%と6%の低下である。
 2010年上期の実質賃金は、
 17年も前の1993年と同じ水準でしかない。
 超円高は、
 製造業の海外流出を促進するが、
 いまや、内需型産業と思われていたサービス産業も、
 デフレと超円高で内需が増えないため、
 海外企業を買収して、
 海外事業展開を進め始めた。      (つづく)